会社が用意すべきキャリアパスとは?

理由は不明ですが、なぜか人事育成とか人事制度に興味が昔からあって、会社が制度として確保すべきキャリアパスとはどんなものか、をよく考えます。今日は、そのことについてちょっと書いてみようと思います。

まずはじめに考えるべきは、会社としてどういう人材配置で事業をまわしたいのか。具体的には、事業運営単位として1.「スペシャリスト×複数+指揮者×1」なのか、2.「ゼネラリスト×複数+指揮者×1」なのか。これによって、まずは軸足が決まる気がします。

1であれば、プレーヤー時代にはスペシャリストを育てるべく、基本的には異動が無く、一本のスキルを極めやすいような形のキャリアパスを用意し、指揮者時代にはあえて他部署の管理職を経験させるべきであり、2であれば、プレーヤー時代にはゼネラリストとして必要な部署を回るようなジョブローテーションを組み込みつつ、指揮者時代には何か一つのスペシャリストとしてその分野でのパイオニアになれるようなキャリアパスを用意すべき。

もちろんこれは、軸足としてそういうことが必要なのであって、1であればスペシャリストを養成するようなキャリアパスを描きつつも、他の部署とのコミュニケーションをとるような機会を意図的に作ることが有用だと思います。たとえば、入社の最初の研修では全ての部署の仕事を追体験させることや、業務に入ってからも部署間でプレゼンテーションを定期的に行って情報交換を行うなど。2であればジョブローテーション上はゼネラリストでも、個人としての得意分野を作ってそれを伸ばすような機会を作ることも必要だと思います。

この1、2の区分は、あくまで会社側の都合のみ。これに、従業員側の都合を考慮するべく、従業員から見て不都合・不平等を感じるようなケースを除外し、さらにやる気を引き出すための方法を考える。必要な原則は、a.機会平等、b.自由尊重、c.成果主義の3つ。これらが確保できれば1で2も大丈夫ではないかと思います。

具体的には、社内で転職市場を作るということです。例えば、Xさんが部署α(部署のトップAさん)→部署β(部署のトップBさん)への異動願いを出した場合には、XさんはBさんに対して志望動機書を提出して、何故βに移りたいのか、移るとどういう貢献ができるのか?、なぜ今なのか?、などをアピールする。それを受けて、Bさんは、Xさんに対してインタビューを行う。Bさんは、Xさんを獲った後に部署βに対してどういうインパクトがあるかを検証して、βという部署に対してプラスの影響があると判断したら採用を決定する。Aさんには拒否権は基本的に与えられない、というプロセスです。
おまけをつけるならば、仮にXさんが部署βで顕著な成績を残すことに成功したら、そのような人材Xを輩出した部署αを「優秀人材輩出部署」として評価をするとか、部署βにいきなり本異動させるとパフォーマンスが出るかは分からないので、最初の3ヶ月間は「インターン」としてお試し期間とみなし、給料は最低ラインだけど、過度な期待はかけず、3ヵ月後に、部署βにそのまま残るか、部署αに残るかの選択肢を残すとか、自分の都合で異動をしたら、最低で2年間はその部署で仕事をすることを義務化するとか、そもそも部署αからの退出条件として、部署αでの過去1年間の成績がいいことを付与するとか、そういうアレンジもありかと思います。

こうすると問題なのは、A.人気のある部署に人が集まり、人気の無い部署には人がいなくなる、B.部署αと部署βの仲が悪くなる、C.会社として思い通りの人を育てられなくなる、という点でしょうか。

A.については、そもそも何故人気が無いのかによります。仕事が魅力的ではないからか?忙しすぎるからか?給料が安すぎるからか?上司の人気が無いからか?仕事に魅力が無いというケースは、余程のことでもない限り、世の中の誰からも嫌われる部署というのは存在しないと思うので、その部署での仕事を前提に中途採用をするとか、そもそも、そういう仕事はその企業の中核業務ではないでしょうから、その部署の仕事をアルバイトにやらせるとかアウトソースするとかという方法があると思います。忙しすぎるのは、基本的にはマネジメントのやり方の問題なので、上司の問題。給料が安いのであれば、会社の中核業務であれば基本的には上げるという方向で検討すればいい。このときにはあくまで意味も無く上げるのではなく、成果をできるだけ数値化してそれと連動させるようにして納得性を高める。上司の人気が無いのは、あくまで上司の問題なので、上司を挿げ替えるのが一番手っ取り早い(大変ですが、現実的)。

B.については、いわゆる「引き抜き」のケースですが、これは部署αをマネージしているトップAさんが、Xさんが満足するような職場環境を提供できていなかったことが根本の原因なので、自業自得。しかし、一方でXさんと部署αの関係が理不尽に悪くならないように、このような制度を会社として認めているということを会社のトップが明確に宣言していることが大事だと思います。

C.については、そもそも「会社としての思い通りの人」が従業員から見て「なりたいロールモデル」でなかったということが証明されたに過ぎないので、会社として欲しい人材像を再考するべきだと思います。

逆にこの方法のいい点は、A.「運」に左右されず実力で自分のキャリアを開く機会が平等に与えられる、B.自分の部署のプレーヤーを部署のトップがより大事にする、C.成果主義が加速する、でしょうか。

A.については、Xさんが異動できるかどうかは、受け入れ側の部署βの人材逼迫度も影響しますが、基本的にはXさんの実力次第。「今は、人がいっぱいだし、これ以上いてもコストがかかるだけだからいらないよ」と言われても、「自分が行けば、こういう貢献が出来て、部署βをよりよく出来ます」といって納得させられれば異動ができる。
B.については、トップは、魅力のあるプレーヤーがいなくなってしまうことは自分の部署の戦力ダウンになり、ひいては、自分の評価も下がることになるので、きっちりと育てることになる。
C.については、この方法を使うと、Xさんとしては、「やりたいことをやれる」環境に移れるわけで、「やりたくないことをやる」環境にいるよりも、明らかにパフォーマンスは向上するし、それを基準にして人材流動が進むので、成果主義の考え方が急速に浸透する。

以上の方法が、会社・従業員共に納得感のあるキャリアパスかと思っています。ただ、上記が作用する大前提として、会社全体として健全な成果主義が徹底されていることが条件ですが(だからこそ、部署βのトップBさんは、Xさんを採用するか、しないかの判断が可能になる)。

それじゃあ、成果主義ってナンだ、ということになると、本題で無いので簡単に書くと、基本的には、「被評価者の納得感の高い評価軸に沿った評価をする考え方」だと思います。それを制度としてインプリするとすれば、360度評価になると思います。360度評価のいいところは、被評価者の関係者が、被評価者に与えられる評価に対して一定の納得感を得られることであり、逆に、被評価者としても、一人に評価されるよりも複数の上下左右から評価されるほうがより納得間が高まるということだと思います。デメリットは、手間がかかることですが、これはもうしょうがない。人事評価というのは、上記で書いたような人事制度にとどまらず、(当たり前ですが)会社の業績や企業風土まで左右するものなので、手間をかけて当たり前だと思います。

私自身が、4社ほど渡り歩いてきて、4社4様の人事制度を見た中でこんなことを考えてきたわけですが、上記の手法に一番近かったのは、前職のコンサルティングファーム。周りの人は、人事評価の時期になると、タダでさえ仕事が忙しいのに、これにかかる作業が追加されるので(私もそうでしたが)不満たらたらになりますが、制度自体にはそれほど不満は出ていなかったと思います。それでもまあ、大変は大変なんですが。

おそらく、最初に会社を立ち上げるときにこういう制度体系を作れていればいいのでしょうが、今ある会社の制度を変えるのは、とんでもなく大変なので、言うは易し、行うは難しかなぁ、とも思います。ある時点で、いっせいに導入すると、きっと人気の無い部署から人気のある部署にいっせいに異動願いが提出されて、きっと人気の無い部署はすっからかんになっちゃう。でも、それくらいの変革がそもそも必要だったってことなんだと思いますが。

いつか、こういう制度のインプリをやってみたいな。