品質の考え方に対する大転換期

今週の日経ビジネスの特集は「品質の復讐 驕れるモノづくり大国への警鐘」。
昨今の車のリコール問題や、SONYリチウム電池の問題を鑑みて、以前は、世界一といわれた日本の品質がどうなっているのか、今後どうするべきか、ということを特集しています。

特集の中身は各自で見てもらうとして、個人的な品質に関する考えを書こうと思います。

1.製品の「送り手」側の品質管理体制が弱くなった
2.製品の「受け手」側の品質に対するリアクションが大幅に大きくなった
3.その結果として、製品の品質に関するリスクは、企業にとって飛躍的に増大してきた
4.今後は、品質に対するイノベーションが求められると同時に、このイノベーションを継続的に起こすことが日本企業の存在価値となる

1.製品の「送り手」側の品質管理体制が弱くなった
以前の高度経済成長時代は、「いくらお金をかけても、効率をある程度無視してでも、完璧な製品(ゼロ・ディフェクト)を作ろう」という気概があった。それが、IT化の進展による「品質確認のIT依存」とバブル崩壊による「コスト低下圧力」により、コストに掛ける手間もお金も減っていった。品質に対する考え方も、ゼロ・ディフェクトから、費用対効果を重視するようになった。「故障があるのは当たり前。ある程度の故障を許容しないと、いくらお金があっても足りない。大事なのは、お金に見合った品質を作りこむことだ」という意識が出てきた。これは、よく言えば、短期的に見たときの経済効率性を優先させているといえるが、悪く言えば、要は品質の優先順位を下げたということになる。また、製品は技術進化によりどんどん複雑化しているのにもかかわらず、品質管理体制というのは、大筋ではこの数十年と変わっていなかったことも原因かもしれない。

2.製品の「受け手」側の品質に対するリアクションが大幅に大きくなった
以前は、故障があっても、故障によって被害を受けた個人・企業に影響が閉じていた。しかし、インターネットの普及と、PL法に代表される「メーカーの責任」に対する消費者の意識の高揚により、一つの故障が、世間に広まるスピード、範囲が急速に大きくなった。以前は、10万件に1件の問題は、10万消費者のうち1消費者+αくらいしか問題にならなかったのが、10万消費者全て+潜在的な消費者にまで影響を及ぼすようになった

3.その結果として、製品の品質に関するリスクは、企業にとって飛躍的に増大してきた
リスク = 発生可能性 × 被害の大きさ と考えれば、1.によって発生可能性は増大し、2.によって被害の大きさも大きくなった。その結果として、製品品質リスクというのは、飛躍的に増大する結果となった。

4.今後は、品質に対するイノベーションが求められると同時に、このイノベーションを継続的に起こすことが日本の存在価値となる
要は、「ゼロ・ディフェクト」が求めらるということです。1億件に1件も許さない。
これは、今の世界のどこを見渡しても出来ていないことだけれど、だからこそ日本がやらなきゃいけないし、日本企業にしか出来ないと思う。品質の悪い製品は、技術が移転すれば世界中どこでも出来てしまうだろうから、本当に品質のいいものを作るような仕組みに関するイノベーションが達成できれば、それは日本の国際競争力の源泉となる。
今、トヨタでは、レクサスに関しては、「リコール0件」を目指して品質の作りこみをしています。「リコールを3割削減なんてのは、もはや目標にならない。目指すなら0件だ」ということらしい。

この「ゼロ・ディフェクトを目指す」というのは、品質に対する考えの大転換だと思います。
だって、ゼロって、当たり前だけど、シックス・シグマよりも小さいわけで。以前は、コスト度外視でゼロ・ディフェクトを目指していて、その次に、コストに見合ったディフェクトを目指していて、今度は、コストを見つつもゼロ・ディフェクトを目指す。
でも、これくらいしないと、今の日本「人」の製造業における社会的意義って、なくなっちゃうんじゃないかと思います。何となくですけど、総体的な企業としては外資系でも何でもいいんだけど、やっぱり日本「人」が品質に対して責任を持つ企業でないとここまで徹底したことが出来ない気がするし(例えば、マーケティングは外人で、販売も外人だけど、設計と製造は日本人、みたいな。とはいっても、そんなにキレイに経営機能ごとに分けられるものじゃないから、難しいかもしれないですけど)。ちなみに、職人芸という意味では、すでに日本の一部の中小企業は、超品質の良いものを作って、それを競争力の源泉にして生きている企業は存在するし、ドイツ、スイスにもそういう職人はいると思う。だけど、これを組織としてやっちゃう!ってところがミソ。

ちなみに、製造業じゃこれって大変だけど、これを実施している業界ってすでにありますよね。そのうちの一つが、金融。だって、1円でも間違っちゃあダメでしょ。一兆円を扱おうが、10兆円を扱おうが、やっぱり1円でも間違っちゃダメなわけで(まあ、簿記上は「よく分からないけどなくなっちゃったお金」っていう扱いはありますが)。もちろん、扱ってる商品も、ビジネスプロセスも違うから単純に比較は出来ないけれど、「すんごいたくさんのものを扱いつつ、でも、ちょっとの間違いも許されない」ということは、理論的に不可能ではない、ということは実証できているわけで。

がんばってください!(←無責任。。。)