攻撃の理由

一般的に言われるのは、「武装勢力の掃討」ですね。論理展開としては、
1. 米英軍によるフセインの追放
2. (明白なアメリカ主導による)暫定統治政権によるイラク統治
3. イラク統治を邪魔するテロリスト
4. イラク統治を推進するための、テロリストおよび背後の武装勢力の掃討
という流れでしょうか。


これを、一般的な問題解決のフレームワークに当てはめてみます。全ての問題解決は、突き詰めてしまえば、「あるべき姿」「現状」「両者のギャップ」「問題解決策」に分解することが出来ます。


「あるべき姿」 暫定統治政権によるイラク統治の順調な進行
「現状」 暫定統治政権は存在するが、治安悪化
「両者のギャップ=問題」 テロリストによる治安の悪化
「問題解決策」 テロリスト掃討


問題解決には、正しい問題解決と、誤った問題解決があります。正しい問題解決とは、上記の要素をすべて正しく捕らえている問題解決。逆に、誤った問題解決とは、上記のいずれかを見誤った問題解決のことです。


自分には、どうしても今回の問題解決が正しいとは思えないのです。その理由を以下に書きます。


「あるべき姿」
現状の暫定統治政権によるイラク統治があるべき姿でしょうか?イラクの人々の少なくとも半数は、反米と考えていいと思います。反米の市民が、アメリカ主導の暫定統治政権を支持するとは、とても思えません。フセインを追放したという功績は、評価されるべきものですし、イラクの国民もよく思っていることだと思います。しかし、戦争という名目であれ、無実の人々を殺害した(している)という事実、また捕虜への虐待など、米英軍への悪い印象は、ぬぐいきれるものではないでしょう。
本当のあるべき姿は、米英軍を離れた統治機構でしょう。そのためには、米英軍の撤退が必要条件となると考えています。
「現状」
治安が悪い。原因は何であれ、治安が悪いことは、悪い。これは正しいかも知れません。
「ギャップ」
テロによる治安の悪化。これも正しいと想います。
「問題解決策」
テロリスト掃討。ここに大きな問題があると考えています。
第一に、上記で述べた、「あるべき姿」がすでにずれているからです。上記のようなあるべき姿を設定すれば、テロリスト掃討の前に、米英軍の撤退という手段を取る事が、問題解決の第一歩になると考えています。
第二に、仮に「あるべき姿」がアメリカ主導の暫定統治機構による統治であるとしたとしても、「テロリストがテロをするから、テロリストをなくす」というのは、根本的な解決にはならないということです。
例えて言うならば、「台所に、ゴキブリがいて、気持ちが悪い。だからゴキブリを退治する」といっているのと同等です。台所にゴキブリがいるのは、問題です。だからといって、ゴキブリを退治することは、問題の根本的な解決にはなりませんね。台所をキレイにしなければ、いくらでもゴキブリは出てくるからです。逆に言えば、台所をゴキブリが出ないように、キレイにすること、これが正しい問題解決策でしょう。
イラクの場合にも、なぜテロが発生するのか、を考える必要があります。

テロリズム】(terrorism)
①政治目的のために、暴力あるいはその脅威に訴える傾向。また、その行為。暴力主義。テロ。
②恐怖政治
岩波書店 広辞苑 第五版)

特徴は、
1. 政治目的があること。
2. 暴力に訴える
ということですね。
(話がそれますが、これを見れば、アメリカの行為がテロでなくて、イラク武装勢力の行為がテロであるという、「テロ」の境界線は極めて不透明であるように思えます。)
イラク武装勢力の政治目的は、何か。
イスラム原理主義によるイラク国家の支配、自部族のイラク国家における優位性の確保、いろいろあると思いますが、最低限言える大枠での目的は、「自分たちの手中にイラクを治める」ということですね。


イラク武装勢力の立場に立って、目的を達成するための、手段を考えれば、今はアメリカの手中に治められかけているイラクを、取り戻すために、アメリカに攻撃をする、ということになります。


宗教という観点で見れば、キリスト教的支配を(結果として)推し進めることになるアメリカの動きは、イスラム原理主義という観点で考えてみても、対抗措置としてのテロを誘発する充分な原因になるでしょう。イスラム教文化を、キリスト教文化で支配しようとすれば、十字軍の争いに始まる、パレスチナイスラエルと全く同じ状況に陥ります。


イスラム教社会をキリスト教、もしくは資本主義の価値観で量り、支配するのは、不可能です。共存は可能だとは思いますが。(インドにいると、複数の宗教が、一つの国の中で共存することの可能性を教えられます。複数の宗教の一国内の共存は、決して不可能ではないです。)


となれば、解決策はどうなるか。テロへの戦いと言って自国では賄い切れない軍事力・資金提供を強要する国際協調などではなく、アラブ社会との積極的な協調による、イスラム社会による統治を進める、ということになるでしょう。幸い、サウジアラビアは、まだギリギリ親米です。


憎しみは、憎しみを生みます。戦いが続けば続くほど、死傷者が増えるほど、憎しみの総体は大きくなります。誰も、自分の大事な人を、戦争であろうがテロであろうが、失いたくはない。


早急にアメリカが撤退し、アメリカ主導ではなく周りのアラブ諸国を主導にした形での暫定統治政権によるコントロールを行い、最終的には、完全にイラク主権の政権樹立、これを目指すべきだと思います。


それでは、今日はこの辺で。