ナイロビにて:ジンバブエから逃げてきたんだ、助けてくれ。

現在出張でケニアの首都、ナイロビに滞在中です。街をいろいろ見て回るというのが一番の目的ですが、そんな中、ある意味で典型的なアフリカ的出来事があったので、紹介します。

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ナイロビの中心地を歩いているとき、突然声を掛けられる。「どこから来たんだ?」

振り返ると黒人。上はチェックのシャツに茶色のジャケット。下はグレーっぽいズボンで、すごくクール、というわけではないけれど、まあこざっぱりしている。向こうの質問に対して日本から来た、と答えると、「来年京大に行って修士号を取るんだ」と返してきた。

ケニアから日本に留学する人はそれなりにいるので、あ、そうなんだー、と適当に返す。

そうすると向こうは「いろいろと日本のことが聞きたいから、ちょっとコーヒーでも飲みながら話さないか」と。
こっちも時間があったし、ケニアのことを知るにはケニア人と話をするのが良いので、まあいいやと思って近くのコーヒーショップに入る。逃げる場所とルートは一応確認しておく。

コーヒーショップに入ると、店員さんがやってきて注文を取る。自分はブラックコーヒーを頼むと、向こうは、何もいらない、という。

変な感じだなぁと思っていたら向こうが話し始める。「実は、自分はジンバブエ人なんだ」
なんだ、ケニア人じゃないのか、とこの時点で相当がっかりする。向こうが話を続ける。

ジンバブエは政治が混乱していて、独裁者のムガベ大統領が4か月前、大学生75人を弾圧し、殺害した。自分は命からがら友人二人と逃げてきて、途中ザンビアに3か月くらい潜伏して、3週間前にケニアに入った。ケニアでは仕事を探そうとしたものの、身元が保証できないため仕事には就けない。なのでケニアを出て、ジブチまで行き、そこにいる人権団体のサポートを得て、日本に行き勉強をしたい。」

一気に怪しい雰囲気が出てくる。というか、ここまでくれば次に何を言われるかは小学生でもわかる。

「国を出てくるときにお金を少し持ち出していたが、今はもう全く無い。実はケニアの滞在可能期間は入国書類上今日までとなっていて、今日、国外に出ないといけない。しかしお金がないので困っている。どうか助けてほしい。助けてくれたら、お金を返す、とは言えないが、後で『ありがとう』とメールをするから。300ドル必要で、100ドルは既にスイス人から援助をしてもらった。いくらでもいいから援助してほしい」と言って、スイス人らしき名前とメールアドレスが書かれた紙を差し出される。

なんでお金のお返しがありがとうメールなんだ、という突っ込みはさておき、さてどうしようかと考える。

面倒くさいから適当に断って店を出てもよかったのだけれど、何となくそれは芸がない。それに万が一、もし本当にジンバブエから来て逃げているんだとしたら、それは確かに助けてあげたい。どうにか、こいつが本当にジンバブエから来たということを確認する方法は無いだろうか。身分証明書の類は、全部おいてきたと言われてしまえばおしまいなので、何か、ジンバブエ人だったら絶対に知っていることを確かめるしかない。

そこで少し考えて、ある質問をしてみた。




ジンバブエでは携帯を使っていたよね?」

当然向こうは「使っていた」と答える。

「どこの携帯会社を使ってた?」と聞いてみる。

「Safaricom」と回答。

あぁ、残念。やっぱりジンバブエから来たのじゃなかったのね。

「そりゃあ、おかしいなぁ。Safaricomは、ケニアでは確かに大きな携帯キャリアだけど、ケニアでしか事業を展開していないんだよ。」

少し困ったような顔をして「そういえば、Airtelもあった!」と答えてくる。

「いや。Airtelは確かにケニアでは事業をしているし、アフリカ16カ国で事業を展開しているけれど、残念ながらジンバブエでは事業を展開していない。ジンバブエで事業を展開しているのはEconetという最大手とあと2社なんだけど、SafaricomでもAirtelでもないんだよ」

向こうは無言になってしまった。

この隙に店員を呼んで、勘定を済ませて、店を出る。
追いかけられて捕まえられても困るので、小走り。道に出てもスピードを緩めず、高級ホテルのロビーとりあえず飛び込む。

冷静に考えれば、要は単にお金の欲しいケニア人だということが分かったのだから、ちょっとした調べもの的なことをさせてそれに対価を払うというようにすればよかったとも思うが、まあ、しょうがない。

なんだかこういうの、久しぶりでした。