ITにお金を使うのは、もうおやめなさい

ITにお金を使うのは、もうおやめなさい ハーバード・ビジネススクール・プレス (Harvard business school press)

ITにお金を使うのは、もうおやめなさい ハーバード・ビジネススクール・プレス (Harvard business school press)

ニコラス・G・カー氏が、2003年にハーバードビジネスレビューに載せた論文を発展させたのが本書です。ITに携わる人間として、思わず題名に魅かれて買ってしまいました。

ポイントは、以下のとおり。
1.ITを、「情報技術」として定義し、情報技術の使い方、情報技術が支えるビジネスプロセスとは別個に考える。
2.この場合、ITは、ソフトウェア、ハードウェア、ともに「コモディティ化」かつ「共有インフラ化」がほぼ完了している状態である。
3.コモディティ化により、ITは競争優位の源泉ではなく、競争に乗り遅れないために必要な、保守的な資本となる。従い、IT支出は、競争優位を獲得するための積極投資ではなく、必要最低限の機能を、リスクを回避しつつ、安く調達する、という消極的投資となる。
4.IT投資を消極的投資と位置づけることにより、リスクと費用を負担して、技術的な最先端を行くよりも、ライバル企業に最先端を行かせて、技術の安定化、および価格低下を待ってからの導入のほうがリスクが少なく、有利となる。これまでの、「他社に先駆けて、少しでも早く、最先端のものを導入しなければ、取り残される」ということは、無い。これは、ITプロジェクトの成功率の低さに着目することで、より明確となる。
5.ITによる生産性向上が見られたのは、証券業界におけるオンライン証券会社のみであり、統計的には、ほかの業界ではITによる生産性向上は認められない。

上記のポイントが、ほかの技術(鉄道、電信電話、電気、等)とのアナロジーにより解説されています。

自分の感想としては、ほぼ同感。よく言われることですが、ITは、あくまでツールなので、システムや技術自体が価値を生むのではなく、その使い方で価値が生じます。ツールであれば、必要な機能を、安く実現できればよいことになります。例えば、家を建てることを考えると、金槌は、重要なツールです。しかし、金槌があるからといって、家が建つわけでは無い。金槌を使いこなす大工さんと、家の設計図が無いといけないし、金槌自体よりもむしろそちらのほうが重要です。さらに、金槌であれば、釘をきちんと打つことが出来るだけの強度があればいいので、無駄に高い金槌を買う必要は無い、ということになります。

本書でも、ITの重要性は否定していません。あくまで、ITが競争優位の源泉になることはない(正確に言えば、そういう時代は、過ぎた)ということを主張しています。

IT投資に関する考察自体も面白いですが、それと同じくらい、技術の発展が、促す技術のコモディティ化が、企業活動、社会経済にどのような影響を及ぼすのか、という点も丁寧に書かれているので、面白かったです。