Why poverty persists in india

Why Poverty Persists in India: A Framework for Understanding the Indian Economy (Oxford India Paperbacks)

Why Poverty Persists in India: A Framework for Understanding the Indian Economy (Oxford India Paperbacks)

インドは、急成長を遂げています。しかし、その裏では、いまだに数億という人が、所得が低く、十分な教育が受けられない状態になっています。そのような状況を目にして、どうしてかな、どうしたら、富の再分配が可能になるのか、を考えていたときに見つけた本です。

以下、本書の論点を「非常に粗いレベルで」記述します。備忘録。
貧困がなくならない原因を、本書では、主に農業生産性の低さに帰着しています。前提として、財を農業品(食料)、工業品の二種類に分けます。そして、全ての家庭は、まずはじめに所得を食料に向け、余った分を、工業品に向ける、という行動をとります。この前提の上で、十分な農業生産性が確保される前に、工業生産性を向上させた(というのが、筆者のインド政府の今までの財政方針)と仮定した場合に、どのようなことが起こるかを記述しています。
この場合、結論として、すでに工業品を消費できる家庭だけが、その恩恵を受け、食料にすべての所得を消費せざるを得ない家庭では、その恩恵を受けることは出来ません。まずはじめに、工業生産性の向上により、工業品生産に携わる労働需要は減少します(例:同じものを作るのに、5人必要だったのが、3人しか必要でなくなった)。その結果、工業品生産に携わる労働者の賃金は下落し、農業生産に人が流入することになります。土地が有限であることを考慮すると、農業生産における一人当たり生産高が減少することで、農業生産のための賃金が低下します(1ヘクタールに、20人働いていたのが、40人働くことになっても、生産高は、2倍にはならない)。したがって、農業品生産、工業品生産どちらの産業に携わる労働者にとっても、賃金が低下することになります。この結果、現在の所得で、食料しか消費できない家庭は、賃金がさらに低下することで、より貧しくなる、という結果になります。
農業生産性の向上に必要な点として、本書では、第一に教育、第二に、労働生産性を挙げるための政府支出(灌漑整備など)、第三に、農地改革をあげています。

以上が、本書の内容。以下で、今のインドでのIT産業の隆盛がどのような影響を与えるか、について、(素人的に)簡単に論述したいと思います。
IT産業の需要は、基本的には対外輸出需要です。したがって、海外での市場が、国内での労働生産性の向上を上回る勢いで伸びていけば、IT産業に携わる労働者の需要は伸び続けることになります。その結果、IT産業に携わる労働者の賃金は向上し、暮らし向きはよくなる、といえます。現在、IT産業の平均賃金上昇率は、年間11-15%と言われているので、今のところは、市場が順調に伸びていて、その恩恵を受けている、と言えるでしょう。
それでは、この恩恵を全ての人が公平に受け、インド全体の底上げを可能とするにはどうしたらよいか?論点を、2点に分けます。
1点目:IT産業に携わる機会を公平に与えるためにはどうしたらいいか?
IT産業に携われるようになるためには、最低限の教育がまずは必要になります。その教育を全ての人が受けることが出来る方法としては、政府による教育補助金、企業などのボランティアによる教育、があげられます。
2点目:IT産業が得た富を分配するにはどうしたらいいか?
累進課税による徴税を行い、それを、1点目で述べたような補助金に回す、もしくは、農業生産性向上のための資金に回す、という方法が考えられます。

・・・インド経済の前に、自分の発想の貧困さに泣けてきます。

何はともあれ、本書は、経済学の基本的なフレームワークに、単純化したモデルを適用することで、理解が進む本でした。そのフレームワークも、随所で丁寧な説明がなされており、比較的薄い本なので、インドの貧困問題に興味のある方には、お奨めです。